各クリニック代表 診療への想い
大髙在宅ケアクリニック
院長・医師
大髙 正裕(おおたか まさひろ)
在宅医療の主役は
患者さんと家族。
裏方で支える役割を
まっとうしたい
どれほど医学が発展しても、その技術を一人ひとりの患者さんに届け、“温かみのある医療”としていくうえで現場の医療者の存在は欠かせません。
そして、その医療者の想いを知ることは私たち患者や家族にとっても“安心の医療”へとつながります。
大髙在宅ケアクリニック院長の大髙正裕医師の診療への想い、この機会にぜひ知ってください。
農村地帯で経験した在宅医療が再出発の原点
下町ならではの人情が色濃く残る葛飾区と江戸川区で在宅医療に取り組んで16年――。
院長の大髙正裕医師はこれまでに数えきれないほど大勢の患者さんとその家族をサポートしてきました。
内科と緩和ケアを専門とし、寝たきりの高齢者を中心にがんの患者さんも診療します。
「以前は大学病院や総合病院の血液内科で血液がんの治療に従事し、在宅医療やホスピス、緩和ケア病棟での勤務も経験しました。
いろいろな場所で働いてきましたが、いつも“不完全燃焼”のような思いがくすぶっていました」
医療者が医学的にベストだと判断し提供した医療は、必ずしも患者さんや家族にとってよい選択であるとはかぎりません。
健康を取り戻せる見込みのない治療に苦しむ患者さん、そして、その姿を見てつらい思いをする家族を目の当たりにして、大髙医師には自分が行っている医療は本当に患者さんや家族が望んでいることなのかという迷いがあったといいます。
「40代半ばとなり、自分が何をしたいのかをもう一度考えたときに思い出したのが若い頃に山形で初めて経験した在宅医療だったのです」
看護師と二人で患者さんの自宅に向かうと、居間などにベッドが置いてあり、患者さんや家族と世間話をしながら診察をするのが常でした。
「穏やかな時間が流れる空間で、医師も患者も関係なく一人の人間として向き合い、患者さんや家族が望んでいることをみんなで一緒に考える。
そこには、私が思い描く理想の医療の形がありました」
大髙医師は山形で経験したような在宅医療がやりたいと、医療法人社団明正会に入職します。
創設者である初代理事長が掲げた3つの理念「手当ての心」「安心と安全」「信頼とよろこび」に強く共感し、在宅医療に対する思いで意気投合したことがきっかけでした。
そして、2004年から明正会で訪問診療に加わり、2007年に大髙在宅ケアクリニックを開院し、院長に就任しました。
「多職種連携」で患者と家族の生活を支える
患者さんと家族が望んでいること、決断したことを全力で支える――。
大髙医師はクリニックを開院するにあたり、上記の理念を掲げました。
そして、このことを実践するために医療ソーシャルワーカー(MSW)を雇い入れました。
「自宅で療養する場合も介護保険サービスなどを利用できますが、病状が重くなるにつれ、ご家族に見守りや介護など何らかの形でケアの一端を担っていただかなくてはならないこともあります。
また、入院時のように医療者が迅速に対応することが難しく、患者さんや家族にはさまざまな制約や負担も強いられます。
こうした療養環境の中、患者さんと家族を全力で支えるためには医療職だけでは限界があり、福祉職や介護職など多職種でかかわることが重要になってくるからです。
そのための連絡調整係が必要でした」
大髙医師らが患者さんや家族の要望を聞き取り、みんなで話し合って診療方針やケアの内容を決めたら、それがきちんと提供できるように連絡調整係のMSWや看護師がさまざまな職種との間で調整し、サポート体制を整えていきます。
どのようなニーズにも対応できるよう、同クリニックが連携する職種は、整形外科医、皮膚科医、歯科医、訪問看護師、ケアマネジャー、ホームヘルパー、薬局薬剤師、管理栄養士、医療事務員など多岐にわたります。
「うちのスタッフは本当によくやってくれています。
大勢の患者さんや家族を抱える中、その願いを叶えていくことはとても大変ですが、当院ほど一人ひとりのニーズに細やかに対応している施設は、この地域において他にはないという自負があります」
また、法人専属の管理栄養士が在籍しているのも同クリニックの大きな特徴の一つです。
「高齢になったり脳卒中の後遺症があったりすると飲み込みの機能が衰え、普通の食事が食べられなくなります。
そこで、管理栄養士がその人の状態に合わせて、食材をどのように調理すればいいのか家族やホームヘルパーに提案し、最後まで患者さんが“食べる楽しみ”を維持できるようQOL(生活の質)の支援にも力を注いでいます」
これらの取り組みに対する満足度は高く、先日も98歳で亡くなるまで3年にわたって訪問診療で支えてきた高齢者の家族からケアマネジャーを通して「大髙先生たちにサポートしてもらって本当に心強かった」というねぎらいの言葉が届けられたといいます。
こうした利用者からの評価はクリニックへの信頼にもつながっています。新規の患者さんを受け入れる際、ケアマネジャーからの紹介が最も多く、「ここなら何とか対応してくれる」と、ほかの在宅クリニックで断られてしまった困難なケースを依頼されることも少なくありません。
また、外来を中心に診療している開業医からも「通院できなくなった患者さんを診てほしい」という依頼を受けることが増えてきたといいます。
「地域の信頼に応えていきたいので、当院ではどのような場合も“断らない”ことを信条としています」
在宅医療を美化せず、誠実な診療を心がける
そして、大髙医師が自分の診療活動において最も大事にしているのが“誠実であること”。
「それぞれの患者さんが自分の人生を歩いてきた中で、病気を患い、その経過も踏まえたうえで家族と話し合い、納得して療養先を選ぶことが大事なので、在宅医療を強くすすめませんし、病院の医療よりいいということもいえません」
この考え方は看取りにおいても同じです。
患者さんがだんだん弱ってきて死期が近くなると訪問の度に患者さんの状態や状況を家族に丁寧に説明し、看取るための準備に入りますが、自宅で看取ることに家族が不安を感じ、入院することを希望すればMSWが受け入れ先の病院を探して手続きを行います。
ともすれば在宅医療は美化されるきらいがありますが、このエピソードからも大髙医師が誠実な医療を実践していることが伺えます。
「在宅医療の主役は患者さんとご家族なのです。
その主役たちが舞台でいきいきと過ごせるよう、私たちは裏方として支える役割をまっとうしていきたい」
目の前にいる一人ひとりの患者さんとその家族を全力でサポートするためにチームの仲間と協働して最善を尽くす日々。
今、大髙医師にかつてのような迷いはありません。
「毎日“完全燃焼”できる在宅医という仕事は私にとっての天職です」
(取材日:2021年3月29日)